温泉ブログ 山と温泉のきろく

山好き女子の温泉と食と山旅の記録です。

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よく知っているはずの街が、まるで知らない街のように見えた

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「やんなっちゃうよ、就活。この前なんて面接で『文学部日本文学科です』って自己紹介したら『就職する気がない人が入る学部ですね』って言われたんだよ」

「まあ、文系でも語学とか法律とか経済とか簿記とか?勉強してきた人と比べたら、役に立つ感じはしないもんね……」

「だね!実際、就職したいかしたくないかって言われたら、別にしたくはないしねー」

「文学とは何だろう」と考えてみた

この記事は、はてなインターネット文学賞の一環で「インターネット文学だと思うテキスト」を選出する、というリクエストをいただいて書いています。

選出にあたり「しかし、文学とはいったい何なんでしょうね」と考えたとき、思い出したのが、大学を卒業する年に就活中の同級生と交わした会話でした。

大学と大学院の修士課程で日本文学を専攻していたのですが、就職氷河期のまっただ中で就職活動は本当に厳しかったです。面接官も常に、落とす理由を探していたのでしょうね。「文学部ねえ」といったような反応をされることもよくありました。
私が卒業した後に母校の文学部は「人間文化学部」に名称を変更してしまったようです。就職活動での心証を良くする意図があったのかどうかはわかりませんが、文学部よりはそっちのほうがなんとなく、役に立つ学問のような気はします。何を学ぶ学部なのかは、よりわかりづらくなった気がしますけど。

そんなわけで今回「実際に何かの役に立つわけではない」ことが「文学」である証なのではないか、と考えました。
「役に立つわけじゃない、けど、なんかいい」と思える文章。(役に立つ文学もあるだろうとは思いますが)
その基準で選ばせていただいたのが、こちらです。

kikuchidesu.hatenablog.com

実を言うと人様のブログをあまり読まない私なのですが、私自身のブログのテーマでもある登山と温泉旅の情報収集のために、旅のブログはたまに読ませていただいています。
今夜はいやほい」も、もともとはそのつもりで読者登録したのですけど、いくつかの記事を読んで「このブログは、自分の旅の参考になるわけじゃないな」と気がつきました。

ご紹介した記事の冒頭で、著者のきくちさんは「別府で遊郭建築に泊まった」と回想しています。それはこちらの記事のことですが、じゃらんでも楽天トラベルでも扱っていない1泊2500円の、元遊郭だった宿に宿泊された際のお話です。
私は、別府に行ったら何としてでも温泉のある宿に泊まりたいし、じゃらんでも楽天トラベルでも予約できない宿に泊まることはないでしょう。しかし、この記事はおもしろいのです。泊まる部屋の布団をめくったら先客(白黒の猫)が寝ていたくだりなど、読んでいてどきどきしました。

基本的に女ひとりで人との接触をはじめとした面倒は好まない、冒険は山に登ることだけ、という私とは旅の趣向があまりにも違って、参考にはならないのですが、でも、おもしろい。いいなあー。

別府での体験を受けて、山形県の酒田市でやはり元遊郭だった旅館に泊まったときのブログが、今回選ばせていただいた記事です。

こちらもじゃらんや楽天トラベルでは予約できない宿で、宿泊当日に宿に電話をして予約を取りつけるのですが、電話の相手が耳がとおいおじさんで難儀されていました。どうにか予約できた宿ではウェルカムドリンクに濁り酒となぜかTimTamのチョコレートを出され、その後は酒田の街に飲みに出かけます。宿を出る際に「帰ってきたら一緒に飲みましょう」的なことをほのめかしていた宿のおじさんは、戻るとテレビをつけたまま寝入っていました……。

もし、私が酒田に泊まるとしたら、じゃらんや楽天トラベルで検索して、評判のいい旅館かホテルを前もって予約することでしょう。旅館なら若葉旅館か……今なら、駅前に新しくできた「月のホテル」なんかもいいなと思います。それは、この記事を読んでも変わりません。おじさんとのやり取りも、読むぶんにはちょっと楽しそうだけど自分でやりたいとは思わない。つまり私自身の旅の役に立つ情報があるわけではありません。
でも、文章を読むことできくちさんの旅を追体験できて、時間が経つとまた読みにきたいなと思うのです。これは、文学だわ、と。

きくちさんのブログの記事はどれもそういう魅力に溢れているのですが、その中から今回、松山旅館の記事を選んだのは、酒田が私の地元に近い、よく知っている街だからです。
よく知っているはずの街が、きくちさんの目を通した文章を読むことでまるで違った街のように見えて、新鮮な驚きがありました。あの街のどこかにこの宿があり、おじさんがTimTamで濁り酒を飲んでいるのか……。
私もひとつ、TimTamを買ってきて濁り酒飲もうかな、と。

ちなみに、冒頭に置いた雪の残る街を写した季節外れな画像は、数年前の酒田駅前です。今は再開発でぜんぜん違った風景になっているのでしょうね。しばらく行けていませんが、落ち着いたらきっと。そのときはまた、きくちさんのブログを思い出すのでしょう。

「役に立たなくても、なんかいい」と思える文章を書きたい

私自身、旅をテーマとしたブログを書いており、昨年はひとり旅についての本を出させていただきました。

たまに「私は一人で出かけるのは無理だからこの本(記事)は役に立たなかった」というようなご感想をいただくので「タイトルですぐわかるのになぜ読もうと思った……?」などと正直思っていたのですが。
もしかしたら、きくちさんのブログを読んだときのような感覚を求められていたのかなあと、この文を書いて思いました。

自分自身はひとりで出かけることはないとしても、読んで「なんかいいな、また読みたい」と思ってもらえるような、そんな文章を。

すべての人のリクエストに応えるのは無理と知りつつも、私も書けるようになりたいです。

はてなブログでは、7月15日(木)から特別お題キャンペーン「はてなインターネット文学賞」を実施しています。この記事はキャンペーンの一環として、月山ももさんに「インターネット文学」について執筆いただきました。(はてなブログ)