温泉ブログ 山と温泉のきろく

山好き女子の温泉と食と山旅の記録です。

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あの頃「祐天寺に帰りたい」と思い続けた理由を確かめに、伝説のもつ焼き屋・忠弥に一人で飲みに行ってきた

大学3年から5年間、東横線の祐天寺駅から徒歩10分のところに住んでいました

私の勤め先では毎年「5年後の自分が成し遂げていたいこと」を紙に書いて上司に提出するという、気持ち悪い風習があります。

紙は上司が取りまとめた後、聞くところによれば社長が読んでいるという話で、やる気のある社員なら「新規事業を立ち上げて年間売上げ○億円」とか書くのかもしれません。

しかし私の仕事へのモチベーションは常に「低め安定」なので、仕事で成し遂げたいことなど特に思い当たりません。もう10年ぐらい前のことになりますが、入社して初めての提出時に書くことがなくて困っていたら先輩社員が「別に仕事で成し遂げたいことじゃなく、プライベートの目標でも何でもいいんだよ」と教えてくれたので私はこう書いて、おそるおそる提出したのです。

「祐天寺に引っ越したい」

内心「入社して間もないくせにこんなふざけたこと書きやがって」などと呼び出しを受けたらどうしよう、と心配もしていたのですが、それから1年間、特に誰からも5年後の目標について触れられることはなく、また「5年後の目標」を提出する時期がやってきました。まだ祐天寺に引っ越していなかった私は、その年もこう書いて出しました。

「祐天寺に引っ越したい」

ふざけて書いていたわけではなく、心から、祐天寺に帰りたいと願っていたのです。

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祐天寺は、大学3年生のときから5年間住んだ街でした。
8年前に登山を始め、早朝から電車で山に行くことを考えると祐天寺よりも現在の住まいのほうが便がいいため、今は「祐天寺に帰りたい」とは思っていません。しかし、登山を始めるまではしょっちゅう、祐天寺の物件情報をチェックしたりしていたのです。本当に好きで「帰りたい」と思っていました。

しかし、今になってみるとどうして、あれほど祐天寺に帰りたいと思ったのでしょう?
いつのまにか、その理由はよくわからなくなっていました。

今回「住みたい街、住みたかった街」というお題を見たときにふと、そのことを思い出したので書いてみることにしました。

東急東横線で渋谷、代官山、中目黒の次の駅が「祐天寺」

「祐天寺」という駅名を聞いて「ああ、あそこね」とピンと来る人ってどのぐらいいるんでしょうか。

祐天寺に住んでいたころ「どこに住んでいるの?」と聞かれて「祐天寺です」と答えたら「あー!中央線ね!安い飲み屋がいっぱいあっていいよね」と言われたことがあるのですが、それたぶん高円寺……。

「東横線の」って付けないとわかってもらえないぐらいの知名度なんだな、と学習し、以降は「東横線の祐天寺です」と答えるようになったのですが、そうしたら「あー、菊名の隣のね!」と言われたのですが、それたぶん妙蓮寺……。
というか、妙蓮寺駅もまあまあマイナーな気がするんですけど、なぜにそっちが先に出てきたのでしょうか。横浜出身の人だったのかな。

祐天寺は、東急東横線で「渋谷」「代官山」「中目黒」と来た次の駅です。各駅停車しか停まりません。

東京に来て初めて住んだのは、祐天寺からさらに2駅先の「都立大学」にある女子学生専用のマンションでした。管理人が常駐していて男子禁制で、それほど厳しいわけではないけれど門限があるようなところで。心配性な親に「初めての一人暮らしなんだから心配」と言われて2年間押し込まれたのです。

2年後に晴れて「普通の一人暮らし」ができることになったとき、引っ越し先の候補として考えていたのは実は、祐天寺と都立大学の間にある「学芸大学」駅でした。都立大に住んでいた頃から自転車でちょくちょく通っていたのですが、都立大学と違って商店街に活気があってお店が多く、お惣菜屋さんや古本屋が多いところが特に気に入っていました。

それで、学芸大学駅前にあるいくつかの不動産屋に入って物件を探したのですが、学大にはあまりいい物件がなく「ここはいいかも」と思えたのが、祐天寺の駅から歩いて10分ほどのところにあった低層マンションだったのです。*1
そこに大学院を修了するまで5年住み、引っ越してから干支一回り以上の時間が経過しています。

祐天寺から引っ越した理由は「家賃が高かったこと」と「色恋沙汰」でした。
各停しか停まらないとは言え、渋谷まで6分で着く祐天寺はまあまあ家賃が高かったのです。また、家賃が高いわりに、住んでいた部屋がバストイレ同室だったのも地味につらくて。

それでも、学校まで自転車で行けるという金銭的・時間的メリットが学生時代はあったのですが卒業に伴ってそれもなくなり、そこに色恋沙汰が後押しして今も住んでいる街に引っ越すことになりました。ですが、引っ越すころにはすっかり祐天寺が好きになっていたので、引っ越してしばらく経ち、色恋沙汰のほうの理由がなくなってしまった後には

「もう少し稼げる人になれたら、また祐天寺に住みたいなあ」

と考えるようになっていました。

いったい祐天寺のどこがそんなによかったの?

もう少し給料が増えたら祐天寺に引っ越したい……親しい友人にもそう言い続けていたら数年前、私よりも高給取りな友人が祐天寺駅から徒歩8分ぐらいの場所に引っ越すことになりました。しかも学芸大学駅からも徒歩10数分という好立地。なんてうらやましい……。

いいなあ、今度遊びに行くから祐天寺で飲もうよ!と話していたのですが、引っ越し後に初めて話したとき、彼女はこう言ったのです。

「ももが祐天寺に帰りたい帰りたいって言ってたからすごくいい街なんだと思って引っ越したんだけど、どこがそんなによかったの?正直よくわからない」

おお……昔ながらの友人は辛辣。

「だって駅前にお店が少ないし、チェーン店のお店はそこそこあるけど、あまり行きたいと思えるような店がないよ。たまに休みの日とかに学芸大に行くとあっちは栄えてるから、もっと学大寄りのところに住めばよかったって思ってる」

とのことで。
なんか……すまんな。申し訳なくて「祐天寺飲み」はいまだ実現していません。

しかし、言われてみると私はいったい、どうしてそんなに祐天寺が好きだったのでしょうか。

いやもしかして、私の知っている祐天寺と、今の祐天寺ではだいぶ変わってしまった、ということなのでしょうか?

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私が住んでいた頃、東横線渋谷駅はまだ、地上2階にありました。

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東横線渋谷駅がすっかり様変わりしてしまったように、祐天寺も最早、私の知っている祐天寺ではない、ということ?

気になったので、会社を早退して行ってみることにしました。

あの頃、行きたかったけど行けなかった「伝説のもつ焼き屋 忠弥」

会社を早退したのは、祐天寺に住んでいた当時「行ってみたいと思いつつ行けなかった」店の営業時間が、平日は16時から19時までで、売り切れ次第終了というお店だからです。

久々に祐天寺に行くのなら是が非でもあの店で飲んでみたい……。
住んでいた当時は20代前半の小娘だった私も今やいい大人の年齢ですし、一人飲みの経験値も上がりました。

当時は恐れをなしてしまったけれど、今なら行ける。きっと行ける……。

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祐天寺駅のホームに降り立つと、住んでいたころはなかったピカピカのエスカレーターが設置されていました。

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改札口を出て、駅の西口を出て線路沿いの住宅街を歩くと、すぐに見えてきます。

伝説のもつ焼き屋・忠弥。

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平日16時、土曜日14時30分に営業を開始し、早いときは2時間ほどで品切れ続出となってしまうことで、勤め人にはなかなか通うことが難しいということで「幻」だとか「伝説」と称されることがあるという、人気のお店です。

土日休みの会社勤めの身では土曜日しか行くチャンスがないのですが、当然ながら土曜日はよりいっそう行列も長くなるとのこと。一人でそんな行列に並ぶのは落ち着かないよ……ということで、いつか、平日の早めの時間に行きたいと思っていたのです。

平日でも営業開始前から多くの人が並ぶとのことなんですが、着いた時刻は16時15分。
ちょうど、開店時に入店した人が落ち着いて飲み始めた頃ではないかと思うのですが果たして、空席はあるのでしょうか。

店の前に立つと、賑やかな話し声が響いてきます。引き戸を開けると……。

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カウンターの端から端までびっちりお客さんが!!
平日開店直後でもこんな感じなんですね……。
ちなみに、立っているスーツの方は帰ろうとしているわけではなく

「今ちょっと詰めてもらって座れるようにするから、先にオーダーを紙に書いててね!」

と言われているところでした。おお、これは一巡目の誰かが帰るまでは座れないかな……?
そう思いつつカウンターの中を見ると「お母さん」という雰囲気の方と目が合い

「ちょっと待ってね!ちょっとだけ待ってね!」

と言われます。そしてややあって

「今座れるようにするから、注文書いて待ってて」

と、小さなバインダーに挟まれたオーダーを書くための紙の束とボールペンを手渡されました。

オーダーは紙に書く、とは口コミなどで予習していたけれど、ドリンクオーダーは口頭でいいのかな。きっとそうだよね。

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壁に貼られている「本日の入荷品」を眺めます。
名物だという「シビレ」は既に売り切れでしたが、それ以外はすべてまだ、ありました。良かった。

迷いつついくつかの注文を紙に書いていると、お母さんがカウンターの手前側の角に座っていたおじさん2人に「ちょっと詰めてもらえる?」と席を作ってくれました。その際

「美人が座るから狭くなっても我慢してね!」

とおっしゃるので「ずいぶん持ち上げるんだな」と思ったのですがその後

「お金持ちが座るから」

と続いたので、もしかしてこれ、私を誰かと勘違いしているのではないか?という疑問が湧いてきました。お世辞にしても初見の客を「お金持ち」って言いますかね?

その予感は的中し、席についてオーダーの紙を渡しながら

「ビールください」

と言ったら、お母さんは私の顔をまじまじと見つめ

「あら、かま田さん(仮)じゃなかったわ」

と言いました。やっぱり……。

「誰か似てるお客さんがいるんですか?」

と聞くと

「そうなのよ、1人で来るなんて珍しいなと思ったんだけど」

とのことで、どうやら私によく似た、1人では飲みに来ないお金持ちの奥さん?の常連客がいるんでしょうね。
そうか……じゃあ、慌てて席を空けてくれたのもその常連客と間違えたからだったのか……?などと考えていると、注文したビールとお通しが来ました。 

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口を付ける前にスマホで写真を撮っていると、お母さんに

「ごめんなさいね、この席は携帯禁止なのよ。こっちの席なら大丈夫だからこっちに来ましょう」

と言われ、端の方にあるテーブル席に移動することになりました。

おお……食べログの口コミ、けっこう読んできたんですけど「携帯禁止」は見てなかったな……。みんな料理の写真載せてるし、カウンター席が全部禁止なんでしょうか?テーブルは8席だけで、カウンター席がほとんどなんですけども。*2

その後入ってきたお客さんがカウンター席に通されるときは「ここ携帯禁止なんだけど大丈夫よね」と確認していました。案内のとき常連客と間違えていたから、私には確認がなかった、と言うわけですね。でも、少し、気まずい。

ビールを飲んで待っていると、煮込みが来ました。

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おお……見るからにおいしそうな、塩煮込み!

おいしい……これが本当にモツなのですか?と疑いたくなるほど何の臭みもなく、お酒が進むちょうどいい塩味と脂。汁も味噌汁のように飲めてしまいます。

煮込みとお通しのキャベツでビールを飲んでいると、空腹だったので少し酔ってきました。ちなみにお通しのキャベツは、ときどきお母さんが回ってきて追加してくれます。

さっきまで感じていた微妙な居心地の悪さも忘れかけたところで、注文した串が次々にやってきます。

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ちれ、ひもスタミナ、てっぽう、レバー。
おいしい……どれがどうとかどうでもよくなってしまう。脂がうまい。酒が進む。

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ガツ醤油漬け。
コリコリとした歯触り。おいしいけれど、最初にいただいた煮込みと、タレ焼き4本と比べると、やや普通かもしれません。

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なんこつ塩。あ、これはまた、おいしい。
軟骨だけどお肉もしっかりついていて、塩味であっさりいただくのもいいな。

最初の1本が出てくるまではそれなりに待ったような気がしたのですが、その後はどんどん出てきました。おいしいのでどんどん食べてしまいます。そして、もう少し食べたい。

しかし、最初に手渡された「オーダー用の紙とペン」は注文時に回収されてしまったし、なんとなく追加オーダーは、しにくい感じで。

というか、追加オーダーできるのでしょうか?
こういうタイプのお店って独自ルールがあって、料理のオーダーは初回のみだったりというところもありますよね。

それこそググればわかったのかもしれないですが、最初に「携帯禁止」と言われたショックで、使ってOKと言われた席に移動してもなお、じっとスマホを見つめることに抵抗を感じてしまう私。

いや、というか、聞けば済む話なんですけどね!わかっているけど聞けなくて、他のお客さんたちの様子をしばらく伺っていたのですが、周囲の人たちも追加オーダーしている気配はありません。

うーん、今日はこのへんにしておこうかな。1人客はサクッと食べて飲んで立ち去ったほうがいいね。

帰ろうとしてお会計をお願いしようとしたら

「キャベツもっといらなかった?足りた?ごめんねゆっくりできなくて」

と声をかけられ、会計が2309円だったので2310円出したら

「これはいいからまた来てね」

と10円返されました。

いい店なんだな……。

もし、今も祐天寺に住んでいて、そして平日の早い時間にちょくちょく飲みに行けるような身分だったら、きっと常連になったような気がします。
たしかに、一見の一人客がゆっくり飲める雰囲気の店ではなかったけれど……常連になるほど通えばきっと、焼き場をのんびりと眺めながら飲める人になれたのでしょう。私によく似ているというかま田さん(仮)のように。

そう、たぶん、そういう風になりたかったんだ、あの頃の私は。

しかし、祐天寺に住んで平日の早い時間に常連になるほど飲みに行けるって、どういう暮らしぶりの人なのでしょうか? 平日休みの仕事の人ってそんなにたくさんいるの? 私には、想像もつきません。

ちなみに後からググったところ忠弥は、追加オーダーも可能とのことです。
勇気を出して頼めば良かったよ!

祐天寺駅前から10分歩いて、もう一軒の「行きたかった店」に向かう

忠弥を出たのは17時前だったのですが、もうすっかり日が暮れていました。
もう一軒の「行きたかった店」の開店時刻は18時なので、まだ少し時間があります。

せっかくなので駅前のお店などを眺めつつ歩くことにしました。

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駅の目の前にあるパン屋さんの「シェ・リュイ」
この店は私が住んでいたときからありました。代官山にあるちょっと高級なパン屋さんの支店なので、そう頻繁には買えなかったけれど、たまに菓子パンを買うのが楽しみで。カヌレもおいしかったなあ。

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忠弥があるのと反対側の、ロータリーがあるほうの出口に出てみます。
駅舎もすっかり新しくなって……まあ、駅舎自体には特に思い入れはないのですけれど。

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1階にはスタバが入っていました。以前は、祐天寺にスタバはなかったです。学芸大のスタバまで自転車で行っていた記憶がありますね。

スタバはできたけど、高架下にあった芳林堂書店はなくなって、その場所は交番になっていました。

新しくできたスタバには何の思い入れもないので、当時からよく行っていたドトールへ。 

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ああ、ここは何も変わっていません。

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コーヒーを買って2階へ。
以前はもう少し雑多な雰囲気だったけれど、内装は少しこぎれいになった気がします。

ここでノートPCを開いて小一時間、コーヒーを飲みつつブログを書いたりして時間を潰します。
なんだか懐かしい。住んでいた頃もよくここで、本を読んだりレポートを書いたりしていたのです。

あの頃は、どこにでも持ち歩ける軽いノートPCなんて持っていなかったけれど。

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小腹も空いてきたところでドトールを出ると、すぐ向かいにまだ新しそうな「大衆酒場」があることに気がつきました。

平日ですし、18時台と早めの時間だからか、お客さんはあまり多くありません。(忠弥は異常ですよね・笑)

そういえば、祐天寺に引っ越した友人が「新しく作った大衆酒場、みたいなお店が何軒もあるのよ」と言っていたのを思い出しました。忠弥が流行っているから、大衆酒場の需要があると見込まれたのでしょうか?

ドトールからロータリーのほうに戻ってくると、ケンタッキーが。

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ここにもときどき来ましたね。若かったから、油物が食べたかったのです。
(ケンタッキーではないけれど、今も油物はよく食べてるじゃないか!という気もしますが)

そして、ケンタッキーの前には「ナイアガラ」の看板が。 

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一度も行ったことはないのですが、ミニSLがカレーを運んでくるという、祐天寺の名所的なお店です。今も元気に営業中なんですね。

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ああ、ここの松屋にもよく来たなあ。うまトマハンバーグ定食をよく食べました。

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マクドナルドにもたまに。でも、隣の本屋さんは品揃えが独特だったのでほとんど入ったことがないですね。こっちの書店はまだ残っているんだな……。

しかし、ドトール、ケンタッキー、松屋、マクドナルド……祐天寺駅前で私が「よく行ったなあ」という記憶があるのって、実はファーストフードや安いチェーン店ばかりなんですね。

まあ、それもそのはずと言いますか、ここに住んでいたのは24歳までのことで。親の計らいでいいところに住まわせてもらってはいたものの、生活自体はつましい学生の一人暮らしだったのです。

当時もときどきは女友達や彼氏とちょっといいご飯を食べに行く機会はあったと思うのですが、そういうときは渋谷や新宿などの大きな街に出てしまうので、住んでいる祐天寺で食べるご飯はたとえチェーン店であっても、外食自体がちょっとした贅沢だったんだ……と思い出してきました。

ですが、今から向かうお店は、そんな祐天寺在住時代に通っていた店の中でも、貴重な「チェーン店ではない」お店です。

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駅を背にして歩き始めます。
この通りには「あたた書店」という古本屋があって、よく行っていたのですが、たしか10年ぐらい前に閉店したと聞いて、しょんぼりした記憶があります。当然ながら今はもう、店があった形跡もありません。 

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「昭和通り」という通りに出ました。

カーナピーナという、激辛だけどおいしいというインド料理のお店。

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私は激辛が苦手なので行ったことはないのですけど、ここは今も健在なんだな。
もちろん今日行こうと思っていた2軒目のお店はここではありません。

そして、ああ……今も建物はそのままなんですね、キクヤベーカリー。

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深夜1時から3時までだけ営業していた謎のパン屋で、ここも「伝説」だの「幻」だの言われて、メディアでもよく取り上げられていました。
おじいちゃんとおばあちゃんが2人でやっていたお店で、住んでいたころときどき買いにきました。クリームパンが異様においしく、その他のパン(ぶどうパンが好きだった)も安くておいしくて

「大量に買いこんで焼きたてを食べまくりたい」

欲求にかられるものの時間は深夜2時、というジレンマに毎度苦しみました・笑
2年ほど前におじいちゃんが亡くなって閉店したと聞き「祐天寺に帰る理由が一つなくなってしまったなあ」と思ったものです。

キクヤベーカリーの数軒先には、見覚えのない酒屋さんが。

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日本酒にこだわりのある酒屋さんのようで、店外のディスプレイには気になる日本酒がいっぱい……。

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ああ……自分の住んでいる駅にこんな酒屋さんがあるのいいなあ……と思って調べると、私が知らなかっただけで、実はこの地で少なくとも20数年以上は営業されている酒屋さんのようです。

住んでいた当時はおいしい日本酒なんて飲んだことなかったし、まったく日本酒好きではなかったものね……知らなかったわけです。

さらに少し歩くと「亜華司弥」という、おそらく「アカシヤ」と読むのでしょうか。なんだか昔のヤンキー的なセンスを感じさせる店名の、お寿司屋さんがありました。

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こちらは新しいお店のようですけれど、飲んで食べて5000円ぐらいで収まる、近所に1軒あるとうれしい江戸前のお寿司屋さんのようです。口コミを読むとお味もなかなか評判がよさそう。

そう、駅前にはチェーン店のお店ばかり目立つのですけど、ちょっと奥に入るとあまり人通りもないところにいい感じのお店が点在している、そういうところだったんです。祐天寺って。

なんだ、何も変わっていないじゃないか……。

駒沢通りを渡り、学芸大学の方向に少し歩きます。

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道の向こうに見えてきました。今日、行きたいと思っていたもう一軒のお店「とんこつ麺砂田」が。

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元気に営業中でうれしい。というか、満席ですか?

「とんこつ麺砂田」でラーメンを食べる

店内に入るとやはり、満席でした。昔も今もおじいちゃんが一人で作っているラーメン屋さんですので、時間はかかるでしょう。待ち客用のソファに座ってしばし待機。

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カウンターの中にいるおじいちゃん*3は、定年退職後にラーメン店で修行をして、駒沢通り沿いで「醤丸」というお店をやっていました。それがちょうど私が祐天寺に住んでいて、キャバクラでバイトしつつ大学院に行っていた頃のことです。

バイトを終えて終電で祐天寺に帰ってきた後でも行ける、深夜も営業しているラーメン店ということで週に1度は通っていて。当時のお店も駅から10分ぐらい歩くところにあり、お客さんのほとんどは近所に住む常連客でした。

私が祐天寺から引っ越してしばらく経った後、どういう理由かはよく知りませんがおじいちゃんは醤丸の店長を退き、それからしばらくして今の場所に自分のお店を開いたとのこと。

実は引っ越し後も何度か、醤丸のほうに食べに来たことはあったのです。でも、今のお店になってからは初めてでした。おじいちゃんの体調不良などで急遽休業することもあると聞き、せっかく行ったのにその日休みだったら切ないなあと思って、なんだか足が遠のいてしまったのでした。

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メニューは、基本のラーメンの値段が少し上がったものの、以前と変わりません。

「とんこつ醤油ラーメン、玉子と海苔トッピングで、全部普通で」

と、水を持ってきてくれたホールのお兄さんに注文しました。
満席なのでおじいちゃんは、休む暇もなくラーメンを作り続けています。

きっと、私のことはもう覚えていないだろうな……。

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待っている間ググってみると、おじいちゃんが前身の「醤丸」を辞めたのが2009年とのこと。ということは、少なくとも10年以上来ていなかったことになります。

そんな私のことを、さすがに覚えているはずは……。

しかし、そんな予想に反しておじいちゃんは「お待ちどおさまー」と私のラーメンを、カウンターの中から手渡しながらこう言ったのです。

「ひさしぶり!」

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お、覚えていてくれたのですか!

それから特に、お久しぶりトークが繰り広げられたというわけではなく、おじいちゃんは次のお客さんのラーメンを作り始め、私はラーメンを食べました。

ああそうそう、こういう味だった。
とんこつ醤油ラーメンなのになぜか味噌汁を飲んでいるような感じがして。魚介系の出汁の味がするからでしょうか。

それと、思い出した。日によって、時期によってわりと味にブレがあって、たぶんラーメン通の人は高い評価を付けないだろうと思うけれど、先週と違う味でも何か「これはこれでおいしい」と思えてしまう、そんなラーメンでした。

海苔トッピングが合うって覚えていたから付けたんだけど、チャーシューもおいしかったんだよな……。

食べ終わったときには待ち客はいなかったので、おじいちゃんの手が空くのを待って昔のようにお話しても良かったのだけれど、なんとなくそれはためらわれて、ホールのお兄さんに会計してもらい、会釈して外にでました。

たぶんおじいちゃんは、「なんか見たことある顔だけど、最近は来てない人だから昔のお客さんだろう」と思っただけで、そんなにしっかり覚えていたわけではないのでしょう。

そうだとしても「ひさしぶり」と言ってもらえたことは、とてもうれしかったです。

学芸大学駅まで歩きながら考えた

「とんこつ麺砂田」は、学芸大学駅と祐天寺駅の間の、少し祐天寺寄りのところにあります。帰りは学芸大学駅まで歩いてみることにしました。

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商店街はやはり、学芸大学のほうがずっと賑やかです。
でも、あの頃、スクラッチカードを集めて貰えるグッズが欲しくて通ったミスドは、なくなってしまったのですね……。

今はわかりませんが学芸大学駅周辺には以前、23時、24時まで営業している古本屋、中古CD屋が何店舗もあったんですよね。深夜まで自転車で古本屋を巡って、何冊か買って帰るのが幸せで、それもこのあたりの街を好きだと思っていた理由の一つでした。

いつのまにか私自身、買うのは電子書籍ばかりで古本屋には行かなくなってしまったけれど。

なぜ「祐天寺に帰りたい」と強く願っていたのか

「忠弥」と「とんこつ麺砂田」に立ち寄り、祐天寺から学芸大学まで歩いてみて思ったんですが、昔も今も、この街に住む人はなんだか、余裕がありそうに見えるんですよね。大衆酒場で飲んでいても、ラーメンを食べていても。

それは、今住んでいる多摩地区と比べてみてもやはりそう思います。先祖代々住んでいるかに関わらず、祐天寺に住んでいるということは実際、それなりに金銭的な余裕がある人が多いのではないでしょうか。

祐天寺に住んでいた当時私は、就職氷河期の一番ひどい時期をやり過ごすためだけに大学院に進学し、かと言って卒業後に就職できるあてなどなく。キャバクラで酒を飲んで笑っていても「私はちゃんと稼いで生きていける大人になれるのだろうか」という不安が、いつも頭の隅を離れませんでした。

就職して自分で稼いだお金で祐天寺に住み、住宅街にあるいい感じのお店に通い、常連になる。そういう風になれたらいいのに!という思いが、この街への執着を強めていたのではないか、と。

そして、当時の醤丸、今の砂田のおじいちゃんは、祐天寺に住みながらも何か居心地悪そうにしていた私に「ここにいていいんだよ」と言ってくれたかのように、当時の私は感じていたのではないでしょうか。

しかし、そう考えるとあの、味噌汁のようなラーメンを食べに集まってくる近所の人が今も昔もたくさんいるということは……。
祐天寺に住んでいて傍からは余裕がありそうに見えていても、実は必死で踏ん張っている人も案外多いのかもしれませんね。

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学芸大学駅に着き、電車に乗って、自分の住む街に帰ります。

今なら、少し無理をすれば祐天寺周辺に住むこともできなくはないかもしれません。
けれど8年前に登山を始め、朝早い電車に乗って山に向かうためには今の住まいのほうが都合がいいため、いつのまにか「祐天寺に帰りたい」という思いも消えてしまいました。祐天寺に引っ越したら今より家賃も上がるだろうし、旅や登山にかけられるお金が減ってしまいますからそういう意味でももう、帰るつもりはありません。

あの頃思っていた「ちゃんと稼いで生きていける大人」に一応なれたけれど、祐天寺に帰るよりも大切な趣味だったり生きがいだったりを見つけられたことを、今は少し誇らしく思います。

帰りたいという気持ちはもうないけれど、砂田にはまたときどきは来て今度はチャーシュー麺を食べたいし、祐天寺に住んでいる友人は平日休みだから、今度は予定を合わせて早退して、一緒に忠弥にも行きたいなあ。
1人で飲みに行って携帯を見れないと、手持ち無沙汰でつい飲み過ぎてしまいそうなので。次回は、きっと2人で。

書籍化記念! SUUMOタウン特別お題キャンペーン #住みたい街、住みたかった街

書籍化記念! SUUMOタウン特別お題キャンペーン #住みたい街、住みたかった街
by リクルート住まいカンパニー

*1:現在は既に建て替えられたもよう

*2:ちゃんとは聞いてないのですが、恐らく焼き場の前の席は携帯禁止としているのではないか?と。

*3:今年喜寿を迎えたそうなのでおじいちゃんと呼んでも差し支えないかなと