親切とは何か
単独登山女子と呼ばれるようになって5年ぐらい経ちます。
その前は山ガールって呼ばれてました。
いつも一人だから寂しそうに見えるのか、山ではさまざまな方から親切にしていただく機会があります。本当にありがたいです。地上で毎日顔を合わせている職場の人にだってそんなに親切にしてもらうことなんてないのにね!いやあ山ってすばらしいよねー。
最初のうちは単純にそう思っていたのですが、いつの頃からでしょうか
「はて、親切にされたはずなんだけどあまりうれしくないんだけどこれはいかに?」
と考えることが多くなりました。
まー私がひねくれていて、人の親切を素直に受け止められない人間である、という可能性も多分にあるのですが、山で「親切とは何か」と思わず考えてしまった事例についてまとめてみたいと思います。
その1 すれちがうとき道をゆずってくれる 【発生頻度】★★★★★ 週末登山ならほぼ必ずある
「すれ違うときは上り優先」とよく言われますね。
真偽のほどは諸説あると思うのですが、多くの方はこちらが上りで自分が下りだと、立ち止まって道を譲ってくれることが多いです。本当にありがたいです。
まあ、ここまでの渋滞だったりすると親切もへったくれもない状態になってきますが、こういう異常事態での話ではなく……。
こんな感じの道などでしょうか。まあすれ違えるけどやや道幅は狭く、向こうから誰かやってきたらどちらかが道の端に避けないと通ることがやや難しい、みたいなときです。
立ち止まって「どうぞー」と声をかけてくださるんですけど、道の真ん中に立ち止まったままで、端に避けるということをまったくされない方がたまにおられるんですよね。
私はどこを通ればいいのだろう?
と思い、しかし「ちょっと端に寄ってもらえませんか?」と言うのも面倒なので、結局こちらのほうが端に寄って「お先にどうぞ」と声をかけ返すことが多いです。
まあ、向こうもお疲れで「どうぞ」と言ったはいいもののよけるところまで頭が回らなかったのかもしれません。誰しもそういうときはありますよね。私自身、無意識にやってしまっているかもしれないですし。
なのでこちらは、発生頻度は高いけれど迷惑度としては低め。
自分自身気をつけよう……という戒めの意味もあって最初にご紹介しました。
その2 食べ物を分けてくれる【発生頻度】★★★★ 泊まるとけっこうな頻度である。日帰りでもあり得る。
山での食事、楽しみですよね~。
私は凝ったものはまったく作らないんですけど、ラーメンでもカレーでも山ではおいしく感じます。
そうですね、自分が作ったものか、お金を払って提供していただいたものであれば大抵。。。
どうしよう……と思うのは「どうぞ食べてください」と、他のグループの方の食事をお裾分けされたときです。
山小屋で自炊していたり、テント泊で隣のテントの方と親しくお話した後などにけっこうな頻度であることです。たぶん本当に、親切心で言ってくださってるんだと思うのですよ!せっかく打ち解けて話してるんだし、特にこっちがアルファ米やラーメンなどの適当なご飯を食べていたら、お裾分けしたくなるんだと思います。でもね。。。
山には冷蔵庫もスーパーもないので、みなさん肉などの生ものは凍らせたり、保冷剤に包むなどして工夫して運んできています。また、野菜などは余計なゴミを山で出さないようにあらかじめ切って持ってきている方も多いです。
正直、心配になってしまうんですよ、衛生的に本当に大丈夫なのか?って。。。
いつもは大丈夫でも、天候・気温・調理方法・食べた人の体質や体調によっては、大事に至らないという保証はどこにもありません。
もちろん、自分の持ってきた食材を自分で食べたとしても同じことが言えるわけですが、自分の経験や体質を考慮して最大限の注意を払うことはできますし、すべて自分の責任なら諦めもつきます。。。
それでもまあ、すごいワガママなことを言いますけど「フライパンで何本か焼いているソーセージのうちの1本をお裾分けいただく」とかだったらうれしいかなとも思うのですが。もともと傷みにくい食材だと思いますし、しっかり火も通せてると思いますし。
実際すすめられて「ううむ」と思ってしまった記憶があるのは「もうかなり食い散らかされてもともと何鍋だったかもわからない状態の鍋の中にご飯の残りをぶちこんだ雑炊」をお裾分けされたとき。
たぶん、そのグループでも量が多すぎて持てあましていたんでしょうね。かつ、食事も後半ですから酔っぱらってもいたんでしょう。。。
写真は雑炊ではなく、私が自作したチャーハンです。
あとこちらも、私が自分で作った薄切りの餅を土台にしてピザっぽく焼いたものですが。
こういう系も、お裾分けされるとやや抵抗があります。
なぜなら上にのってる野菜やベーコンは、フライパンに直接は触れないですからね……焼く前に餅やらベーコンやらを見知らぬ人が素手で並べたのかと思うと、ちょっと厳しいなと。
そう、山ではトイレの後に手なんか洗えない環境のところも多いわけです。
さらに言うと、使った食器や鍋を水で洗ったりもできないところがほとんどです。水場や沢があっても「食器を洗っていい」と書いていない限り洗ってはダメ。
自分では調理や食事の前にウェットティッシュで手を拭いて、食器類も使った後はアルコール入りのウェットティッシュで拭くようにしていますが、見知らぬ人がどの程度気をつけてるかなんてわからないですよね。「オレは使った後の食器はトイレットペーパーで拭くだけだよ」っていう人もいましたし。
もし「前回使った後紙で拭いただけの食器の上に載っている、トイレに行った後手を洗わないで作った料理」だったらと思うと……!
そう言えば……親切とはぜんぜん別の話になりますが、以前「最後の秘境」などと呼ばれる「雲ノ平」のキャンプ場で、沢の水で普通に食器を洗ってるグループがいて愕然としたっけな。。。まあ、きれいにはなりますけどねそりゃ。。。
「テント担いで山に行ってるくせに、何繊細なこと言ってるんだよ」
と思われるかもしれませんが、細かいことが気になってしまうからこそ1人で山に登っているわけでして。
↑こちらにも書いていますが、同じグループの仲間が作った料理を食べるのにも抵抗がある人なので。その日初めて顔を合わせた相手に出された食べ物は、そりゃ無理なわけですよね。。。
でも、勧められたのにお断りするの、本当に心が痛むんですよ。こっちも食事中だったら「もうお腹いっぱいで」とかも言えないですし。どうしたらいいんでしょうねこういうとき。
これまで例にあげたのは概ね山で泊まったときの話ですが、日帰り登山の休憩中でももちろん起こりうることです。
「サンドイッチ食べない?」とすすめられたりとか。
今日気温高いけど、何時間ぐらい持ち運んでいたのかな。。。
このラスクおいしいからあげるよ。とか。
実際に、見知らぬおじさんからいきなりこんな感じで「さきいか」を手渡され
「???」
という気持ちになったことがありました。
そうですね……キットカットみたいな個別包装のお菓子をいただいたり、ポテチやさきいかなどの大袋に入ったものでも、家でよくやるように袋を大きく開けて「たくさんあるから自由に食べてね」と言っていただくのは大変ありがたいなと思うんですけどね。食べたくなかったら食べませんし。
山に行くとフレンドリーな気持ちになって、さっき会った人とも昔からの友達のように思えてしまったり、それこそが山の醍醐味だと思われる方も多いのかもしれません。
でも私はそうではないので、地上であり得ないことは山でもあり得ないです。地上にいて、道ばたでさっき会った人にいきなりお菓子を手渡されたり、ファミレスや居酒屋で隣の席にいたグループから食べかけの料理を「俺たちもうお腹いっぱいだから食べない?」と言われても困りますよね。。。
というわけで「たぶん本当に親切で言ってくださってるのだと思うのだけど、わりと迷惑度が高め」な事例でした。
ただ、山ではいろんなことがありますから、たとえば、道迷いなどで予定を大幅にオーバーして食料も尽きた状態で避難小屋にたどり着いた……みたいな、遭難一歩手前みたいな状態で食べ物をお裾分けしてくれる人がいたら、それはたとえ残りの雑炊であっても大変ありがたいだろうなとは思いますけどね。
その3 おすすめのルートを教えてくれる【発生頻度】★★★ 教えてくれるだけならいい人なんだけれど
こちらも、山小屋やテント場でありがちなケースですが、日帰り登山での休憩中に遭遇することもあります。
山では「どこから登ってきたの?」「どこに下りるの?」という話題は鉄板中の鉄板です。今ここにいるということは誰しもどこかから登ってきているわけですし、どこかには下りますからね。
登山口と下山口がわかったら、そこから「家はどこなのか」「登山歴はどのぐらいなのか」というような他のネタにも話を広げやすいですし。
まあ、鉄板ネタなのでこちらも特に警戒せずに「○○から登って××に下ります」と答えるわけなんですけど、そうすると向こうも「私も○○から登ったんですが、帰りは●●に下りるんですよ」と返ってきます。ここまではいい。
なぜかここからおすすめルート談義が始まることがあるんですよね。自分がこれから行く道がいかにすばらしいか、特にいつの季節がすばらしかったか、まあ、山に来て気分も高揚しているんでしょうな。とは言えこのぐらいまでは、時間に余裕があれば相づちをうちながら普通に聞いていられます。
「そうですねえ、次回来るときはそのルートも検討してみます」とかなんとか言ってみたりして。てきとうに話を合わせたりもできます。
しかしここで
「ここまで来たのに××に下るなんてもったいない。●●に下ったほうがいいですよ」
みたいな感じでルート変更を促されると、これはもう迷惑以外の何でもないです。。。
そう言われましても私がこれから歩くルートについては、入山前に届け出済みですし、交通機関や時間の関係もありますから、ここに来て道を変えるなんてあり得ないわけですよ。
それなのに、私がこれから歩こうとする道がつまらないみたいな言い方しやがって!失礼以外のなんであろうか。
実例をあげると、私は冬~雪解け前の春によく、雲取山荘に1泊して雲取山に登ることがあります。
無雪期の週末は常に混雑している雲取山荘ですが、雪がある時期はかなり空いていますし、とは言え人もそれなりに入っていますので、最もメジャーな鴨沢ルートなら、トレースがないという心配もほぼありません。
それで常に鴨沢から往復するんですけど、山荘での食事どきにルートの話になると「鴨沢を往復するなんてもったいない」と誰かに必ず言われます。完全に余計なお世話ですw
私は自分の力量をわきまえて、時間的交通機関的な余裕も考えて、下山後の温泉と酒をどこで楽しむかも考えたうえでルートを決めてるんだからほっとけやい。
まあ、個人的な考えですけど、こういう場面で「じゃあルート変更しちゃおう!」と決断してしまう人は、とりあえず単独で山に入ることはやめといたほうがいい人なような気がします。あぶないですよ。
その4 なぜか一緒に歩こうとしてくれる 【発生頻度】★★ これはもう親切心からではない気もする
こちらはその3の派生形でしょうか。
ルートの話になったときに、たまたまこれから歩く道がまったく同じルート、あるいは途中まで同じルートだった、ということも、もちろんあり得ます。
そんなときに「じゃあ明日、一緒に歩きませんか?」との申し出を受けることがあるのですが、まあ、こんな風にはっきりと誘われた際はこちらも
「自分のペースで歩きたいのでごめんなさい」
と断ることができるのでまあいいんです。
たまに「自分のほうがペースを合わせるから」と言われたりもしますが、それでも「気を遣ってしまうので、ごめんなさい」と断ります。
問題は、断ったのに、あるいは「一緒に行きませんか」と言われたわけではないのに、なんとなくこちらの出発を待たれていたりして、常に近くを歩かれているようなときです。
多くは、少し後ろをついてくる感じで歩いてきて、こちらが休憩すると向こうも休憩する、みたいなケースです。
とは言え、たまたま出発時間が同じぐらいで、たまたまペースも同じぐらいだったということもあり得るとは思います。私は1人で歩きたい人なので距離を空けたいのですが、振り切るほど早く歩くことができないので、長めに休憩して先に行ってもらおうとします。が、先に行ってくれない。
これは、確信犯なのかな、と思うわけです。
まあ、ケースバイケースですが、なんとか振り切るしかないです。あえて、害のなさそうな人と一時的に一緒に歩いてみたりとかしてですね。。。
もちろん、女子同士の場合はこんなことはあり得ません。単独登山女子同士で山小屋で盛り上がったことは何度かありますが、その場で「次はどこか一緒に登りましょうよ!」という風に話が盛り上がったとしても、その山にはそれぞれ1人で来ていますから、特に示し合わせることもなくそれぞれに下山していきます。
日帰り登山であっても、単独の男性がずっと後ろについてきている状況って、たまたまペースが同じなだけだったとしても、正直ちょっと不安を感じてしまうものです。
不安を感じるので、立ち止まって「お先にどうぞ」と、先を行ってもらうように促すのですが、たまに断られることがあるんですよね。
「連れが後ろを歩いているので」
とか、よくわからない理由をつけられて。
連れってどこにいるんだ?と、あなたの後ろにずっと、誰もいないよ??と。
連れがいるならむしろ、あなたのほうが立ち止まってその人を待っていたほうがいいんじゃないの??と。。。
男性登山者のみなさん、単独登山女子が距離をあけずに前を歩いているなあと思ったら、さっさと抜いていただくか、距離をあげていただけると、大変親切だなと、心から感謝します。。。
その5 駅やバス停まで車に乗せてくれる 【発生頻度】★ 親切心からのことが多いんだと思うのですが…
その4の派生形……というわけではないか。。。
誰かとずっと一緒に歩いて下山してくる、ということはなくても、山小屋やテント場でお話しした方や、山頂や休憩ポイントで言葉を交わした方と、下山口や、下山後の林道歩き中に再会することがたまにあります。
そこで向こうが車だった場合、私は公共交通機関利用なので「○○まで乗って行きます?」と声をかけていただくことがまれにあるんですよね。
それで、駅まで乗せてもらえるなら単純にありがたいなと思って車に乗った後に「せっかくだから一緒に日帰り温泉でも」「一緒にご飯でも」「駅までと言わず東京まで」みたいな話にどんどんなってしまって「え?え?え?」となったことは何度かあります。
まあ、最初から断ればいいんですけどね!
でも、精も根も尽き果てて下山した後、林道や舗装路をてくてく歩いているとき、車に乗せてもらえるって本当に本当にありがたいんですよ!
乗せてくれた方の半分ぐらいは、普通に駅やバス停まで送ってくださる方だったので、その方たちには本当に感謝しています。そう、半分は普通に送ってくださる方なので、つい、甘えてしまったんですよね。。。
あと、山の中で親しく会話した相手であればあるほど
「山中では楽しくお話ししたのにここで警戒するのって悪いかな」
と思ってしまったりで。
「一緒に歩きませんか?」には「自分のペースで歩きたい」で断れるけど「そこまで乗っていきませんか?」に対するうまい断り文句はうまく見つからない、というのもあります。
もう「林道歩きが好きなので!」とでも言うしかないのだろうかと。。。
最近は懲りたので、いくら山中で楽しく会話したお相手であっても、女性か、女性連れの相手でない限りは「大丈夫です」と曖昧な返答でお断りするようにしています。心苦しいし、足も痛いですけど。。。
でも、バスや電車の時間にギリギリで慌てているときなんかに声をかけられたらやっぱり乗ってしまうかもしれない。
この件に関しては、これだけで一記事書けるくらいいろいろあったので、いつか別途記事にするかもしれません。需要あるかわかりませんが。。。
書き終わって思ったこと
あまり考えないで書き始めたんですけど、後半は、単独登山女子ならではのお話しになってしまったように思います。
女が1人で山に登っていると、それだけ多くの人に親切にされてしまうというわけですね!
たくさんの人に親切にしていただきながら、私は山に登っています。
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